WEBニュース&コラム

口腔機能水Webニュース&コラム 2号

機能水の変遷と昨今の話題

日本口腔機能水学会常任理事・日本大学歯学部歯周病学講座診療准教授 西田哲也

1.アクア酸化水の登場

 ドンっと大きなガロンケースに入った液体を机の上に置き、「これを研究しなさい」と当講座の前任の教授から言われたのが、私の機能水との出会いでした。時は私が大学院1年生の1992年頃であったと記憶していますので、機能水との出会いはもう24年も前ということになります。「何ですか?この水は?」と尋ねると、不敵な笑みを浮かべて「魔法の水だ」というだけで、あまり多くを語ってくれませんでした。次いで『アクア酸化水』という名前を教えられ、今度その研究会があるので一緒に参加するようにと言われ、研究が開始しました。研究や研究会への参加につれ、徐々にこの魔法の水のベールが脱がされていくのが楽しみであった時期でもあったと思います。

2.アクア酸化水の有効な性状と利用法の検討

 三浦電子株式会社が開発したOxilyzer®から生成されるアクア酸化水の性状調査や保存法、活用法について主に研究しました。pHメーターや酸化還元電位測定器を手に、保存状態を変化させたり、溶液として様々な物質を混ぜたりしながら更に強力な “スーパー酸化水”を作ろうと野望に燃えていました。結局、酸化水にクロルヘキシジンを混ぜ“スーパー洗口剤”を作ろうと試みたところ、結晶化しただけで、水自体はただの水になってしまい大失敗に終わるという苦い経験と得体のしれない結晶だけが残りました。
 しかし、有効的な基準値を検討した結果、pH 2.6前後、酸化還元電位1,100mV以上であれば、幅広い殺菌力を示すことが判明し、一つの基準値作りに貢献できた喜びを味わいました。また、私の専門分野である歯周治療領域では、アクア酸化水で洗口することで歯垢(プラーク)の付着を抑制させることができることを証明しました1)。さらにその洗口法は、従来の洗口法である1回30秒を1回行うよりも、アクア酸化水はタンパクと接触することにより急速にその効果が消失する特性から、1回10秒を3回繰り返す方が有効的であることを示唆し、その後はこの洗口方法がスタンダードとなっているのも成果の一つだと考えています。

3.強電解水へ名称統一

 さらにはこのアクア酸化水以外の酸化水も登場し、それらは強力な電解による酸性水であることから、強電解酸性水と名前が統一され、その後、アルカリ性や中性領域の水もあることから、電解によって得られる水の総称として強電解水と名称が統一されていきました。

4.強電解酸性水の安全性の検討

 強電解酸性水はpH 2.6前後で炭酸飲料水や柑橘系果汁と同じ程度の酸性度であるため、洗口の仕方や頻度によっては、歯や歯科用金属などへの為害作用も懸念されていました。そこでこの洗口方法の為害作用を検討し、1995年にはエナメル質2)、1996年には口腔内金属3)への影響を検討したところ、影響は認められるものの軽微であり、実際の臨床使用においては安全であることが証明されました。

5.国際誌へのデビュー

 このように経緯をまとめ、1996年には海外の専門誌へ電解による酸性水のプラーク抑制効果として発表しました。強電解酸性水の有効性と安全性を国際的に紹介できたことも有意義であったと考えていますが、電解した水を何かに用いるという概念が海外では乏しく、投稿の査読においては、その電解水の英訳が「acid water prepared by electrolysis apparatus」となり、査読者に理解してもらうまでには時間がかかりました。

6.そして機能水へ名称統一

 その後、様々な研究の結果、効果や為害作用、作用機序が判明するにつれ、現在では“魔法の水”ではなく、科学的な根拠に基づく優れた殺菌能力のある“機能水”であると広く知られるところになりました。

7.昨今の話題

 さてこの機能水ですが、にわかに注目を集めています。理由は、歯科診療用ユニット(チェア)の給水経路に機能水を流し、配管内を常にクリーンな状態にできる可能性が期待されているからです。実はこの機能水を歯科診療用ユニットに通水し、配管内の汚染を防ぐ試み5)やその有害事象(配管の劣化や腐食など)の研究6)については、以前より一定の効果と安全性が確認されていました。しかし最近になり、マスメディアが歯科診療用ユニットの給水管路の安全性について取り上げられた結果、機能水の有用性が脚光を浴びることとなりました。機能水を歯科診療用ユニットの給水管路へ通水することによる汚染防止策は、極めて有効でありながら安価であることが特徴です。他の汚染防止策では、コストが高く、作業が煩雑であることがディメリットでしたが、殺菌効果の高い機能水を水道水の代わりに通水するだけで、歯科診療用ユニットの配管内部を機能水がクリーンに保ち、コストも手間もかからない方法が大いに期待されています。

  1. ) 西田哲也, 江田昌弘, 嶋田浩一, 山田 潔, 伊藤公一,村井正大: アクア酸化水のプラーク形成抑制効果, 日本歯周病学会誌, 35, 692-697, 1993.
  2. ) 西田哲也, 音琴淳一, 伊藤公一, 滝川智義, 小野瀬英雄,村井正大: 強電解酸性水のヒトエナメル質に対する影響, 日本歯周病学会誌, 37, 127-133, 1995.
  3. ) 西田哲也, 内山寿夫, 郷家英二, 伊藤公一, 村井正大, 野元成晃: 酸化水の口腔内金属修復物におよぼす影響 ー金属修復物の電位ー. 日本歯周病学会誌, 38, 78-87, 1996.
  4. ) Ito K, Nishida T, Murai S: Inhibitory effects of acid water prepared by electrolysis apparatus on early plaque formation on specimens of dentine, Journal of Clinical Periodontology, 23, 471-476, 1996
  5. ) 岩本宏: 弱酸性, 中性水を使用したチェアユニット給水管路汚染防止対策, 日本口腔機能水学会誌, 2, 85〜86, 2001.
  6. ) 安永哲也他: 歯科用ユニットの金属に対する酸化水の影響,日本口腔機能水学会誌, 2, 95〜96, 2001.